前回のレポートでは、「全就業者に対する女性比率」、「女性管理職比率」、「平均勤続年数の男女比」、「年間平均給与額の男女比」の4つの指標から女性活用度合いを分析した結果から、各指標を独自に偏差値化して、業種別に女性活用度をランキングしました。
その結果、建設業は主要13業種の中で9番目であり、女性活用が進んでいないことが観察できました。
今回は、建設業の女性活用が進んでいない要因はどこにあるのか、職種の観点から分析します。
まず初めに、総務省の「労働力調査」から建設業における女性比率を主要な職種別にみてみます。
図表①にある通り、全職種に占める女性比率は17.1%と低いことが分かります。全職種計のうち、女性比率が最も高いのは事務従事者の74.4%でした。一方、最も低いのは「建設・採掘従事者(以下、建設技能工)」の2.3%であり、次いで「専門的・技術的職業(以下、建設技術者)」の8.6%が続いています。
建設業の女性比率が低い要因として、建設業の就業者全体の53%を占めている建設技能工の女性比率が低いことから、全体の女性比率を引き下げているものと考えられます。
【図表① 建設業における職種別の女性比率】
出典:総務省「労働力調査」2021年平均より作成
次に、厚生労働省の「労働経済動向調査」から職種別に労働者の過不足状況判断DI(不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合を差し引いた値)の推移の調査データを基に分析しました。
ここでは専門・技術(建設技術者)と技能工(建設技能工)において、特に厳しい人手不足の状況が続いていることが分かります(図表②)。
これらを総合的に考えると、建設技術者と建設技能工の厳しい人手不足解消のためにも、現在、活用度が低い女性の活用を推進することが重要であると言えるでしょう。
【図表② 建設業における職種別の労働者の過不足状況判断DIの推移】
出典:厚生労働省「労働経済動向調査」より作成
続いて、建設技術者の女性比率が低い要因を女性建設技術者の新規採用数と定着率の2つの視点から分析します。
まず、文部科学省の「学校基本調査」の最新データから過去10年間について、大学、大学院から新卒で建設技術者として就職する女性数及び女性比率の推移を調査しました。図表③の通り、女性数は2012年の1,846人から2021年には4,053人に増加し、女性比率も2012年の15.7%から2021年の23.1%に上昇しています。これらから、新卒で建設技術者として就職する女性は増加傾向にあることが分かります。
【図表③ 大学・大学院から新卒で建設技術者として就職する女性数・女性比率の推移】
出典:文部科学省「学校基本調査」より作成
次に、建設技術者として就職した女性の定着率を見る指標として、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から女性の建設技術者数について、建築と土木に分けて年齢層別に調査しました。
まず女性の建築技術者数を見ると、25~29歳の10,750人から30~34歳では5,370人と50%減少しています。また35~39歳では2,850人になるなど、25~29歳と比較すると73%も減少しています(図表④)。
【図表④ 年齢層別の女性の建築技術者数】
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2021年平均より作成
また、女性の土木技術者数では、25~29歳の5,290人から30~34歳では1,350人と約74%減少していることが分かりました(図表⑤)。
【図表⑤ 年齢層別の女性の土木技術者数】
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2021年平均より作成
建設業だけではなく、専門的・技術的職業全体の視点で調査したところ、25~29歳から30~34歳の女性数は、建設業より減少率が低いものの、日本の女性の労働参加の問題とされているM字カーブの問題が解消されていないことが推測されます(図表⑥)。これらの減少率のデータから、建築および土木技術者では結婚・出産・育児で退職する女性が、より多くなっていることが推測され、新卒で採用した女性の建設技術者に長く働いてもらうために、家庭と仕事を両立させるための労働環境の整備が重要な課題になると考えられます。
【図表⑥ 年齢層別の女性の専門的・技術的職業従事者数】
続いて、文部科学省の「学校基本調査」から高校・大学を卒業して建設技能工として就職する男女別の人数と女性比率の推移を調査したところ、女性数は2012年の244人から2021年には708人に増加しました(図表⑦)。同様に女性比率も2012年の2.4%から2021年には5.5%に上昇しています。しかし、建設業の就業者全体の53%を占めている建設技能工の総数257万人に対して、新卒で建設技能工として就職する女性の割合はわずか0.03%と(建設技術者では1.2%)、あまりに少ない状況です。そのことから、定着率と合わせて新規採用数を増加させることも大きな課題になると考えられます。
建設技能工の仕事には鉄筋工やとび工、土木工事作業員等、女性には取り組みにくい職業ということで敬遠される傾向がありますが、人材不足を解消するためには、女性活用を積極的に進めることが必要です。新卒や転職で建設技能工として就職する女性をより多く迎え入れるためにも、建設業各社が取り組んでいる「けんせつ小町」や「くるみん認定」など、女性にとっても働きやすく、働きがいのある職場をつくるよう、さらなる取り組みをアピールすることが重要と言えるでしょう。
【図表⑦ 高校・大学から新卒で建設・採掘従事者として就職する女性数・女性比率の推移】
出典:文部科学省「学校基本調査」より作成