第2回「ITエンジニア不足の現状について」

2019/11/28
第2回「ITエンジニア不足の現状について」

はじめに

国内で深刻化するIT人材不足。これから何をしていくべきなのか、という課題意識のもと統計データを用いて現状分析していきます。
第2回となる今回は、ITエンジニア不足の現状について、IT産業の市場動向をもとにみていきたいと思います。

 

【1】IT産業の市場規模は拡大傾向であり、2017年度には34兆超に


図表①は、IT産業に属する主な業種である「電気通信事業」「情報サービス業」「インターネット付随サービス業」の市場規模の推移をグラフ化したものです。2009年度の約25兆円から増加傾向にあり、2017年度には対2009年度比136%の約34兆円に達しています。

業種別では、音声データの通信といったネットワーク関連サービスを提供する「電気通信業」は、2009年度以降、約14兆円でほぼ横ばいです。一方、主にソフトウェア開発をおこなう「情報サービス業」は、2009年度の約10兆円から2017年度には約17兆5千憶円(対2009年度比174%)にまで市場規模が拡大しました。
また、ECやSNSサイトの運営等をおこなう「インターネット付随サービス業」も、2009年度の約8千億円から2016年度には約2兆5千億円(対2009年度比296%)と、市場が急拡大しています。

図①:IT産業の市場規模推移

 

 

【2】ITエンジニア数は2008年の79万人から2018年には109万人に増加


このようなIT市場の拡大を背景に、ITエンジニアの人材ニーズは高まっています。
ITエンジニア数は、2008年の79万人から増加傾向が続き、2018年には109万人に達しており、10年間で30万人も増加しています(図表②「ITエンジニア数の推移」)。

図②:ITエンジニア数の推移

 

 

【3】ITエンジニアの有効求人倍率は2013年の1.3倍から2018年には2.61倍に上昇


ITエンジニアへの人材ニーズが高まる中、ITエンジニアの有効求人倍率は上昇を続けています。
有効求人倍率とは公共職業紹介所(ハローワーク)において、求職者1人に対して何件の求人があるかを示した比率であり、高くなるほど人材の採用が難しくなります。

図表③は「ITエンジニア有効求人倍率の推移」を表していますが、2013年の1.64倍から上昇を続け2018年には2.61倍にまで達しています。また、全職業合計の有効求人倍率との差も年々広がっています。つまり、他の職種と比較して、採用が非常に難しい状況になっていると言えます。

図③:ITエンジニアの有効求人倍率の推移

 

 

【4】ITエンジニア不足の中、有料職業紹介所経由での転職が増加


有効求人倍率の高まりと比例して、有料職業紹介所経由で転職するITエンジニアも増加しています。

図表④は、有料職業紹介所経由の常用就職件数、新規求職申込件数、常用求人数の推移をグラフ化したものです。常用就職件数は2014年度の18,114件から2017年度には28,039件と対2014年度比155%に増えています。
また、2016年度には新規求職申込件数、常用求人数ともに大幅に増加しており、有料職業紹介所を利用するITエンジニア、IT企業が増えてきていることが分かります。

図④:有料職業紹介所経由でのITエンジニアの常用就職件数

 


【5】大学新卒のITエンジニア数は増加傾向であるが、人手不足を背景に文系卒業者が増加


情報処理・通信技術者へ就職した大学新卒者は、2014年度の約1万9千人から2018年度には約2万8千人に増加しています。しかしながら、このうち工学部・理学部卒業者比率は2014年度の52.3%から2018年度には45.0%に下がっています。このことから、企業が工学・理系出身に限らず、文系の学生をITエンジニア枠で採用するケースが増えていると推測されます。

図⑤:大学新卒の情報処理・通信技術者への就職者数

 

 

【6】大学院(修士)卒業のITエンジニア数は横ばい


次に、図表⑥で、大学院(修士)卒業者の情報処理・通信技術者への就職者数の推移を見ていきます。ITエンジニア数が増える中、情報通信・通信技術者に就職した、大学院(修士)卒は、5年間横ばいとなっています。つまり、IT分野に就職する専門的で高度な教育を受けた卒業生が増えていないことになります。今後、IoT、ビッグデータ解析、AIなど、高度な技術に対応できるITエンジニアの確保が重要になることを考えると、やや不安な実態であると言えます。

図⑥:大学院(修士)卒の情報処理・通信技術者への就職者数

 

 

【7】ITエンジニアの過不足判断DIが急上昇 ~人材不足感が高まる~


企業のITエンジニアへの不足感も高まっています。
企業の人材不足感を示す指標である過不足判断DI(Diffusion Index)の推移を表したのが図表⑦になります。過不足判断DIとは不足と回答した企業の割合から過剰と回答した企業の割合を差し引いた値であり、高くなるほど人材不足感が強くなります。

ITエンジニアの過不足判断DIは2014年2月調査では35ポイントでしたが、その後は上昇傾向が続き2019年2月調査では64ポイントにまで上昇しており、企業のITエンジニアへの不足感が高まっていることが分かります。

図⑦:ITエンジニアの過不足判断DIの推移

 

 

【8】IT人材不足が更に深刻化、2030年には最大79万人不足に 経済産業省調べ


厳しいIT人材不足の中、将来的には、今以上に人材不足が深刻化することが予測されています。

2016年6月に発表された経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」では、IT人材は2015年時点で約17万人不足しているが、今後2019年をピークに人材供給は減少傾向となり2030年には最大79万人にまで不足数が拡大すると推測されています。
また、今後注目すべき先端IT人材(ビッグデータ、IoT、人工知能を担う人材)は、現在約9.7万人で不足数は約1.5万人であるが、2020年には不足数が4.8万人に拡大すると推測しています。

 

 

まとめ


ここまでの分析で、日本においてはIT産業の市場拡大を背景にIT人材へのニーズが高まってきたこと、そして、ITエンジニア数は拡大しているにも関わらず、労働市場を見るとITエンジニアの有効求人倍率は上昇を続け、人材を採用することが非常に難しくなってきていることがわかります。また、ITエンジニア職の新卒採用においても、文系出身者の採用を増やさないと必要人材数を確保できないという実態が分かりました。

このような環境の中で、ITエンジニア不足を補うために有効な手法と考えられるものに、外国人ITエンジニアの活用があります。

第3回では、日本の情報通信業界における外国人労働者、外国人ITエンジニアの実態について分析したいと思います。

 

 

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