新型コロナウイルス感染症の感染拡大をきっかけに、日本でもテレワークが広がりました。内閣府が公表した調査でも、2019年12月には10.3%だったテレワーク実施率がピーク時で32.2%まで高まるなど、今や新しい働き方の一つとして広く普及しています。
しかし、普及が進んだはずのテレワーク実施率が2022年後半以降、少しずつ低下してきているようです。一方、従業員のテレワーク継続意向は高い状態が続き、企業と従業員の認識のギャップがもたらす影響が懸念されています。
この記事では、さまざまなデータをもとに、テレワークの推移について解説します。
ここでは、「テレワーク導入企業の推移」「テレワーク対象者の推移」「テレワーク実施率の推移」「テレワーク実施頻度の推移」と、さまざまな視点から近年の日本のテレワークの変化について解説していきます。
テレワークの歴史は、1970年代のアメリカまで遡ります。ネットワーク回線が普及していなかったため当時は広く普及しなかったものの、その後1994 年に起きた地震を受け、リスク分散のための手法として急速に広まっていきました。
日本では1990年前後のバブル経済の時期にサテライトオフィスの動きがあり、これが日本のテレワークの始まりではないかともいわれていますが、その後のバブル崩壊などの影響によってサテライトオフィスはすべて閉鎖。
その後、政府は「テレワーク人口倍増アクションプラン」で、2010年(平成22年)までにテレワーカーの人口を増やす目標を掲げ、一時的に導入企業が増えたものの、大幅に増加することはなく導入率は伸び悩んでいました。
厚生労働省が公表する「テレワーク導入状況」によれば、企業のテレワーク導入状況は以下のように推移しています。
出典:「テレワーク導入状況」(厚生労働省)
テレワーク導入企業が大幅に増加したのが、2020年(令和2年)からです。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、これまでテレワークに対して「導入していないし、具体的な導入予定もない」としていた企業もテレワークを導入し、「導入していないが、今後導入予定がある」とした企業も増加しました。
令和3年にはさらに導入が進み、テレワークポータルサイトによれば51.9%の企業がテレワークを導入。5.5%の企業は今後テレワークを導入予定としています。
出典:「テレワークについて」(厚生労働省・総務省テレワークポータルサイト)
しかし、テレワーク発祥の地であるアメリカのテレワーク導入率85%と比べると、まだまだ導入率が高いとはいえない状況です。
野村総合研究所が公表するレポート「2022年の日米欧のテレワーク状況と将来展望」によれば、日本のテレワーク対象者(テレワークで仕事が可能な人)の割合は以下のように推移しています。
出典:「2022年の日米欧のテレワーク状況と将来展望」(野村総合研究所)
低かったテレワーク対象者率が急激に増加したのが、最初の緊急事態宣言が出された2020年5月です。しかし、一時的に40%近くまでになったテレワーク対象者率は低下していき、2022年12月には25.5%まで下がっています。
出典:「令和3年度テレワーク人口実態調査-調査結果-」(国土交通省)
国土交通省が公表する「令和3年度テレワーク人口実態調査-調査結果-」では、直近1年間テレワークで仕事をしている雇用型テレワーカーに対して、テレワークの実施頻度についてのアンケートを実施しました。
その結果、令和元年度までの過去4年間は「週に1日以上テレワークを実施する人」の割合は60%前後でしたが、令和2年度から「週2日~4日テレワークを実施する人」の割合が増加。令和3年度には「週に1日以上テレワークを実施する人」の割合が、約78%にまで増えていることがわかりました。
テレワークの実施率は、地域差も非常に大きいことがわかっています。
以下は、内閣府の「第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」で公表された、地域別のテレワーク実施率のデータです。
出典:「第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府)
最もテレワーク実施率が高いのが東京都23区で、2021年9〜10月には55.2%がテレワークを実施しています。しかし、地方圏は東京都23区と比べると伸び幅も少なく、ピーク時でも23.5%ほどと、テレワーク実施率は東京都23区の半分以下となっています。
日本でもコロナ禍をきっかけに急激に普及したテレワークですが、その実施率は少しずつ下がってきています。
2023年5月より、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同じ5類に移行することが決まり、テレワークの対象者や日数を減らしたり、元の働き方に戻すという企業も増えているようです。
公益財団法人日本生産性本部が公表する「第12回 働く人の意識調査」によれば、2020年5月時点のテレワーク実施率は31.5%でしたが、その後は減少傾向にあります。2022年10月には17.2%となり、2023年1月には16.8%となりました。
出典:「第12回 働く人の意識調査」(公益財団法人日本生産性本部)
東京都が毎月行っている東京都内のテレワーク実施率調査(1月の調査結果)では、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は51.7%という結果が出ました。12月の前回調査(52.4%)と比較すると0.7ポイント減少し、24.0%だったテレワーク実施率が上昇して以降、最も低い数値です。
出典:「テレワーク実施率調査結果をお知らせします!1月の調査結果」(東京都)
ただし、東京都内など大都市圏の場合、「オフィス勤務などテレワーク向きの職種が多い」「通勤時間が長いことが多くテレワーク導入メリットが大きい」「コロナ禍など感染症だけでなく大規模地震などの自然災害時の対策としてもテレワークが有効と考えられる」といったメリットも多く、この点からテレワークが定着する可能性が高いと考えられています。
出典:「第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済」(総務省)
日本ではテレワークの実施率が2022年後半以降、徐々に低下が見られる一方で、働く人は「テレワークがしたい」というニーズが高いこともわかっています。
総務省公表の「第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済」で在宅ワーク実施者に対して行った調査結果によれば「継続したい」が43.7%、「どちらかといえば継続したい」が22.7%で、合計66.4%と高い割合の人がテレワークを継続したいと考えていることがわかります。
出典:「令和4年版情報通信白書」(総務省)
さらに、総務省が公表した「令和4年版情報通信白書」で日本のテレワークの年代別の利用状況を見てみると、すべての年代で10%前後の人が「生活や仕事の上で活用が欠かせない」と回答しています。
一方「必要としていない」という人の割合は、年代が上がるにつれて増加しており、テレワークの利用率も20歳代が35%程度と最も高いことから、若い年代の方がテレワークに積極的であることがわかります。
近年は働き方の多様化により、求職者の価値観や希望する就業条件も変化しています。ワークライフバランスを重視した働き方をしたいと考える人も多く、仕事と私生活のバランスを取りながら快適に働くための手段として、テレワークを望む人も増えてきているようです。
ヒューマンリソシア株式会社が実施したアンケートで仕事を探す際に重視する点について聞いたところ、「テレワークができる」と答えたのがテレワーク未実施者は9.0%、テレワーク実施者は66.4%と、テレワークを経験した人の多くが、テレワークを重視した仕事探しをしていることがわかりました。
テレワークという柔軟な働き方ができることは、企業にとって有力なアピールポイントの一つです。人材不足の解消につながるだけでなく、多様な人材の確保にもつながります。優れたスキルや経験を持ちながらもなんらかの理由で外に出て仕事ができなかった人も、テレワークであれば働くことができるようになるでしょう。
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テレワークとモチベーション・エンゲージメントの関係性について
2021年後半頃から、アメリカでは「大量自主退職時代(Great Resignation)」と呼ばれる自主退職者の急増が起こっています。大量自主退職時代が起こった原因の一つと言われているのが、テレワークの影響です。
コロナ禍で長期的なテレワークを経験した社員が会社に通常の出社勤務に戻るよう指示されたため、テレワーク可能な他企業へ転職するという人も出てきているといいます。
テレワークという新しい働き方を経験したことで、「オフィスに出社するこれまでの働き方は自分に合っていない」と感じ、テレワークをはじめとした柔軟な働き方ができる職場へ転職する人が急増しているようです。
新型コロナウイルス感染症をきっかけに日本でもテレワークが普及しましたが、近年は実施率は減少傾向にあります。その一方で、求職者はテレワークを重視した仕事探しをする人も多く、労使間の認識のギャップが存在しています。
単にテレワークを導入するかしないか、続けるか辞めるかといった点以上に、テレワーク環境の改善や見直し、生産性を高めるための施策への取り組みが重要となっていくでしょう。
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